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東京高等裁判所 昭和48年(う)2415号 判決 1974年4月17日

被告人 福田賢一

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人鈴木稔作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して、当裁判所は、次のとおり判断する。

論旨第一について。

所論は原判決の事実誤認・法令の解釈適用の誤りを主張し一、本件ロタミントによる遊戯は賭博とはいえず、かりに賭博であるとしても一時の娯楽に供する物を賭したに過ぎない。二、賭博の前科もない被告人は賭博の常習者ではない。三、被告人は本件ロタミントを遠藤勝美に提供したに過ぎないものであるから幇助犯であるという。

そこで以下順次検討するに

一  原判決の認定する事実を原判決の挙示する証拠と対照して案ずるに、被告人の所為は原判示のとおりの方法であつて結局偶然の勝敗によつて金銭を賭しているのであるから賭博行為であることを否定すべくもない。たとえ所論のように本件所為に秘密性・隠匿性がなく人為的要素がないとしても、またロタミント機が合法的な遊戯機として輸入・製造・販売等されていたとしても、更には所論のような賭博に関する現代社会の風潮があるとしても、それらのことは本件賭博の成立じたいに何らの消長を来すものではなく、可罰的違法性がないなどとはいえない。金銭を賭している以上、たとえ一回の賭金が百円であり賞金が最高千円であつたとしてもこれをもつて一時の娯楽に供する物を賭したといえないことはいうまでもない。

二  なるほど被告人は恐喝の罪で一回、道路交通取締法違反や道路交通法違反の罪で八回処罰されたことがあるだけで賭博に関する前科があるわけではない。しかし刑法第百八十六条第一項の常習性を認定するには特定の資料殊に賭博の前科があることを要するものではなく、犯人の所為じたいについて賭博の習癖が存するものと認めることを妨げるものではない。記録に徴すれば被告人は昭和四十七年十一月中旬喫茶店「しんでん」こと遠藤勝美方に本件ロタミントを設置し、被告人において右機械の鍵を保管し、その後同年十二月三日頃、前同月十五日頃、前同月三十日頃、同四十八年一月七日頃、前同月二十八日頃に右鍵をもつて機械を開け在中の百円硬貨合計十万五千円位を取り出し遠藤と折半したことが認められる。してみると約七十余日の間に少くとも千五百回の賭博行為が行われ、しかも被告人はこれらを営業としていることが明らかでありこのような本件所為の態様、回数、賭金額、営利性など諸般の状況に徴すれば被告人に賭博の習癖があると認めざるを得ない。原判決は所論のように一定期間ロタミントを設置したことじたいから直ちに被告人の常習性を認定したわけではない。また原判決が本件所為を単一罪として処断しているとしてもそれは単に罪数についての見解を示したものであり、そのことが被告人の常習性を認める妨げとなるものではない。

三  記録に徴すれば、被告人は昭和四十七年十一月中旬喫茶店「しんでん」経営者遠藤勝美に「百円玉を入れ当ると金が出る機械を置いてくれないか」と勧誘し同人の承諾を得てロタミントを右「しんでん」に据え付けロタミントの鍵は被告人のみがこれを保管し前記のとおり一ヶ月二ないし三回ロタミントを鍵で開け在中の金を取り出し、当初の約束どおりこれを遠藤と折半したこと、その間機械故障の際被告人が修理したこと、本件賭博行為についてはロタミント機そのものが重要な意味をもつことなどの諸事実が認められ、これらの事実に徴すれば被告人が本件賭博について共謀共同正犯の刑責を負うべきことは否定すべくもない。これをもつて所論のように単なる幇助犯ということはできない。

以上のとおりであつて原判決には所論のような事実誤認や法令適用の誤りはなく、論旨はいずれも理由がない。

論旨第二について。

所論は量刑不当の主張である。記録を調査し当審における事実取調の結果をも加えて所論の当否を検討するに本件の事実関係は原判決の認定判示するとおりである。被告人が遠藤に積極的に働きかけてロタミントを設置させたこと、営業として賭博行為をしたこと、このような本件犯罪の性質、態様その他記録から窺える諸般の事情を考慮すると被告人の責任を軽視することはできず、所論が指摘する、公認賭博の増加、被告人に賭博の前科がないこと、被告人の現在の心境などの諸点を被告人のため有利に参酌してみてもなお原判決程度の量刑はやむを得ないところである。被告人と遠藤が本件所為において果した役割を対比して考慮すれば処分の公平を欠くとまではいえない。原審が被告人を執行猶予を付して懲役六月に処した量刑が重きに失するとはいえない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用につき刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用してこれを全部被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

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